yorozurogo
江戸時代から近代にかけての弘前を中心とした生活図鑑

暖房と防寒ノ編

国指定重要文化財指定「石場家」の台所の囲炉裏(弘前市)

国指定重要文化財指定「石場家」の台所の囲炉裏(弘前市)

囲炉裏で料理。

鍋料理、焼き物の調理場

弘前城北門(通称・亀甲門)向かいにある「石場家」は弘前藩出入りの商家。江戸時代中期の建築と推定される建物は、こみせに面した蔀戸(しとみど)、太い梁に風格と年輪が刻まれている。囲炉裏は台所と常居(じょい)の2ケ所にあるが、常居の囲炉裏は、いわば家長専属の暖房設備。家長が横座に座り、藩からの来客や町の旦那衆など限られた人のみ通されたという。常居の囲炉裏は木炭を使い、調理は行わなかった一方、台所の囲炉裏は女性や子供用で、薪と木炭を使い分け、あらゆる煮炊きを行なった。
18代当主・石場清兵衛さんは、「カギノハナ」(自在鉤)を指差して語る。「ここの縄が炭化して弱くなり、吊している鍋が囲炉裏に落下することがあるんです。灰が舞うことから『灰神楽』と言われる現象ですね。でも、縄のすごい所は、ねじれてほどけながらゆっくりと切れること。だから、鍋もするすると下がって中味もこぼれない。これが単線だとそうはいかないでしょう」。囲炉裏のまわりには、先人の知恵と文化が凝縮されている。
鍋料理以外にも、「ワタシ」という足つきの網の上でキノコや餅などを焼いたり、魚を串焼きにし、「ベンケイ」(弁慶)に刺して乾燥・保存するなど、炎と道具を活用し実に多彩な調理を行った。この他、農村・漁村部では囲炉裏の上に「シダナ」(火棚)を組み、布海苔などさまざまな食料の乾燥にも用いた。

つがるのつと

江戸時代の紀行家、菅江真澄が「つがるのつと」(1798年頃)で津軽地方の囲炉裏の風景を表した絵。カギノハナの上には縄に下げられた食物、右奥には藁苞(納豆か?)が見える。

火棚

「火棚」。食料の乾燥にも用いるが、燻(いぶ)すためにも役立つ。有名な食品に、秋田県の「いぶりがっこ(漬け物)」がある。(五所川原市歴史民俗資料館:所蔵)

上/ワタシ、下/弁慶

上/「ワタシ」。火にかけ干し魚や茸、餅などを置き、焼いた。下/「弁慶」。串焼きした魚などを刺して干し、保存食とした。手前の弁慶が津軽に多い型。奥が新潟県村上市に多いとのこと。(2点とも石場家)

上/ワタシ、下/弁慶

「石場家」18代当主・石場清兵衛さん。

上記の参考文献・資料
『砂子瀬物語』森山泰太郎:著(津軽書房)/『青森県の百年』小岩信竹 他:著(山川出版社)/『女人津軽史』山上笙介:著(北の街社)/『日本の民俗2 青森』森山泰太郎:著(第一法規)/『みちのく民俗散歩』田中忠三郎:著(北の街社)/HP「日本の暖房の歴史」

取材協力
旧平山家住宅/青森県立郷土館/五所川原市歴史民族資料館/五所川原市教育委員会