過酷で長い津軽の冬を生き抜くために、農家の女性たちの知恵と手技から生まれた刺し子。津軽地方では、麻布に刺した幾何学模様が特徴的な「津軽こぎん刺し」が有名だが、年月を経るほどに糸が布に馴染み、着るたびに肌への優しさを感じさせる。日本画家・弘前ねぷた絵師の八嶋龍仙氏のコレクションの多くは藍染めの木綿に白糸の刺繍。浅葱色へと変色した風合いは実に趣深い。
元来、着古した着物や古布の端切れ等を幾重にも合わせて保温性を増し、糸を刺して補強した野良着ではあるが、「用途の美」「生活の美」を象徴する津軽の衣文化は、今や世界的にも類をみない誇るべき希有なアートとなっている。
当て布をしたり端切れを繋いだ、つぎはぎだらけの衣服は今や「BORO(ぼろ)」と呼ばれて若い世代や外国人にも注目視され世界的な評価の気運が高まりつつある。時代背景や価値観、用途は違っても、バランスよく組み合わせることでトレンド(流行)に乗せることができる。
例えばナチュラルな風合いのワンピースや、「藍」で同類のデニム素材でカジュアルに。サテンドレスやレザーブーツで高級感を演出するなど、「着こなす」というより、ちょっと肩の力を抜いたスタイリングで味わい深い魅力が生まれる。古手木綿を継ぎ足し、補強を繰り返しただけの野良着に、存在感あふれるモダンな表情を見ることができるのだ。
古き良きものを懐に抱きながら、新しいものを貪欲に取り入れるという挑戦。いつの時代も必要不可欠なエコロジーの心である。
青森の厳冬と貧しさのなかに生まれた奇跡のテキスタイル・アート「ぼろ」。本県出身の民俗学研究家・田中忠三郎氏のコレクションの一部を収録し、「ぼろ」の美学を惜しみなく表現している。
『BORO つぎ、はぎ、いかす。青森のぼろ布文化』 小出由紀子・都築響一:著/アスペクト刊
上記の参考文献・資料
『津軽こぎん』横島直道:編(日本放送出版協会)/「つがる古文書こぼれ話」弘前市立図書館後援会:編(北方新社)
上記の取材協力(2009年当時)
衣装協力 インクルーズ・Brunmel(ブランメル)
ヘアメイク協力 Bed(ベッド)